古趣創生 松野自得俳画展

 松野自得は曹洞宗の僧侶でありながら、俳人・日本画家としても高い評価を受けている人物です。彼の義父が瀬戸田町(高根島)の出身であったことに加え、ここ瀬戸田に大伽藍を建立していく耕三寺耕三と親交を深めたことなどから、瀬戸田地域との関わりが深い人物でもあります。
 さて、本展では初めに、修辞的・形式的と言われる《旧派》の俳句から、俳壇に革新をもたらした《新派》の俳句まで、近代俳句の諸相を紹介しています。特に《新派》に目をやると、その主流は伊藤松宇・尾崎紅葉らの秋声会であり、正岡子規を中心とする日本派でした。このうち日本派は、正岡子規の死後、写生重視・保守的なホトトギス派と自由闊達・革新的な碧派(新傾向)に分離していくことになります。こうした傾向を短冊から読み解いていただければ幸いです。
 そして、続くセクションにおいて松野自得の俳画を紹介しています。自得は初め、高浜虚子に師事し、ホトトギス派に属する形で俳人としてのキャリアをスタートさせました。また、時を同じくして日本画家としても活躍し、数々の展覧会に入選しています。南画風の軽やかな筆遣いによる絵画と、写生主義を貫いた俳句を折り合わせた俳画は、彼の才能・人間性を強く感じさせるものばかりです。
 またこのセクションでは、自得と耕三寺の関わりを示す耕三寺縁起絵巻や、彼の制作活動の一端を示す雪泥(北満遊記)、それに自得が指導した俳句雑誌『さいかち』などの資料も併せて展示しています。
 近代俳句の祖・正岡子規は作句において写生を重視するとともに簡素なスタイルを追求しました。これは、分かりやすい俳句を目指したとも言い替えられます。ここではその考えに従い、俳句・俳画を想うままに読み解き、自由に味わっていただければ幸いです。どうぞごゆっくりご鑑賞ください。

古趣創生 松野自得俳画展  展示目録
 1 近代俳句の諸相
旧派
佳峰園等哉茨に続く人もさはらず女郎花俳句・短冊
其角堂機一黄鳥に笑はれやせむ耳袋俳句・短冊
八木芹舎出で見るや庵につりあふ三日の月俳句・短冊
椎の友社
伊藤松宇さして行く紀三井は見えす鐘霞俳句・短冊
森猿男己か色にかへる黄菊の夜明哉俳句・短冊
勝峯晋風宵浅く水とまれきれす夏蛙俳句・短冊
紫吟社
徳田秋声狼の声に豆腐の氷る夜哉俳句・短冊
泉鏡花買初に雪の山家の絵本かな俳句・短冊
巌谷小波虫よせる火に立てるそれも涼みかな俳句・短冊
前田曙山紅葉より若葉に悲し夢の庭俳句・短冊
武田鶯塘大原の月につきたり草の餅俳句・短冊
江見水蔭沢蟹の苔に隠るゝ清水かな俳句・短冊
秋声会
尾崎紅葉新年海 波かけや魚の眼も玉の春俳句・短冊
角田竹冷蝶あはれ菜の花あはれ霞あはれ俳句・短冊
岡野知十傘に朝の菖蒲の雫かな俳句・短冊
幸田露伴陽炎や鮒釣る馬鹿の鼻の先俳句・短冊
鵜沢四丁春風や唄も唄ふてバスガール俳句・短冊
生田葵山行く春や島へと渡る薬売俳句・短冊
岡本綺堂味噌汁に蜆の砂も土用かな俳句・短冊
川村黄雨梟の和尚寝たかと啼くなめり俳句・短冊
滝川愚佛鳴き移る樹に残声や秋の蝉俳句・短冊
星野麦人瓜数多浮べしことく泳き哉俳句・短冊
牧野望東彩れる暁雲や春の海俳句・短冊
角田竹涼涼しさや御器量よしのお月様俳句・短冊
筑波会
大野洒竹裸子を追へは炎天逃げ廻る俳句・短冊
佐々醒雪埋火や俳諧国に入りし夢俳句・短冊
笹川臨風寒椿人なき茶室侘しかり俳句・短冊
藤井紫影泰然と富士は在りけり国の春俳句・短冊
久保天随修行者の総髪白き師走かな俳句・短冊
高木蒼梧渺々たる青田もありて淡路島俳句・短冊
日本派
正岡子規蛍籠行燈に遠くつるしけり俳句・短冊
内藤鳴雪霞みけり竹の梢の東山俳句・短冊
柳原極堂竹の子の竹と成る日を風多し俳句・短冊
高浜虚子太腹の垂れてもの食ふ裸かな俳句・短冊
河東碧梧桐雲うらゝ敷浪を又た砂子なる俳句・短冊
五百木飄亭行く年やおいしくなれしふところ手俳句・短冊
大谷繞石夏を花野の山頂平ら岩燕俳句・短冊
夏目漱石蓮の葉に麩はとどまりぬ鯉の色俳句・短冊
折井愚哉虫ほしや南をうくる海の風俳句・短冊
吉野左衛門暫くに雪深し山廬山を見ず俳句・短冊
赤木格堂元旦や神天降る雲明り俳句・短冊
佐藤紅緑鷹の眼にうつる冬雲こくならね俳句・短冊
島道素石寺の裏は町低ふなり雪明り俳句・短冊
青木月斗快く海あれにけり灯の春夜俳句・短冊
寒川鼠骨仰ぎ見るみ屋根の空ゆ夕立雲俳句・短冊
中川四明蝶鳥の几帳ゆかしき雛かな俳句・短冊
大谷句仏炭焼きの火遠き山や初月夜俳句・短冊
松瀬青々鳥は木に寝る楽しみや春の暮俳句・短冊
野田別天楼元旦に束ぬる花のかをりかな俳句・短冊
相島虚吼貧居の茶花は王者の牡丹哉俳句・短冊
碧派(新傾向)
河東碧梧桐蜜柑いぶる葉なり枝なり炉に払ふ俳句・軸装
中塚一碧楼蓮沼を顧みつ廣野がかりかな俳句・短冊
広江八重桜小春日の温泉に山梔子を誰が浮けて俳句・短冊
荻原井泉水すゝしくしぶく舳むけてしまか白波の中俳句・短冊
喜谷六花山前の雨脚青鷺たちにけり俳句・短冊
安斎桜_子凪の島々やほどちかき島のすがた俳句・短冊
伊東月草雲の高さあすもはれかと行水す俳句・短冊
ホトトギス派
高浜虚子初富士や草庵を出て十歩なる俳画・軸装
飯田蛇笏山柿や五六顆おもき枝のさき俳句・短冊
田中王城立ち寄りて仰ぐや鉾の綾錦俳句・短冊
原石鼎かがやかに午すぐる日や初氷俳句・短冊
前田普羅冬梅やこなたを向ける沖の舟俳句・短冊
大橋桜坡子笠を被て花の祇園の篝守俳句・短冊
山口青邨軒の端に落葉する木や十三夜俳句・短冊
山口誓子花野には岩あり窪あり花ありて俳句・短冊
水原秋桜子ナイターの勝ちぬ負けぬと酷暑過ぐ俳句・短冊
高野素十御椅子の桐の御紋の涼しさよ俳句・短冊
阿波野青畝右手あらひ左手あらひて宮達日俳句・短冊
鈴鹿野風呂宇治川の激つ瀬くみて初茶の湯俳句・短冊
日野草城人させばわれもひらくや時雨傘俳句・短冊
富安風生一めんの藤花のなかに蛙の眼俳句・短冊
野村泊月遠くより沸きたち来る落花哉俳句・短冊
村上鬼城麦飯に何も申さし夏の月俳句・短冊
松野自得御光は常夜を照らす八重ざくら俳句・短冊

 2 松野自得の俳画
松野自得獅子舞元旦の人平らけくやすらけく俳画・軸装
松野自得屠蘇うれし寅さん虎になって酔ふ俳画・軸装
松野自得大国主の命の春ぞ白兎俳画・軸装
松野自得屠蘇に酔い龍延年の舞を舞ふ俳画・軸装
松野自得凧上げ猫出して障子しむるや春の人俳画・軸装
松野自得お檀家と繭のはなしや盆の月俳画・軸装
松野自得良寛和尚はちのこをわすれひと日をてまりつく俳画・軸装
松野自得六朝佛盆の月おどってみたくなりにけり俳画・軸装
松野自得夏潮に鯛美しく渦流す俳画・軸装
松野自得潮ひきて蟹の棲家に陽が風が俳画・軸装
松野自得雑草に蛙雑草にいても蛙は飛ぶ姿勢俳画・軸装
松野自得多宝塔新米は白く燿き彌陀如来俳画・軸装
松野自得栗と柿正面の彌陀ニ供へぬ栗と柿俳画・軸装
松野自得柿の木蜻蛉生れ巨いなる眼を背に負える俳画・軸装
松野自得鹿鹿鳴いて猿丸太夫酒さむる俳画・軸装
松野自得芭蕉行脚岩に立てば我も巨人ぞ秋の風俳画・軸装
松野自得芭蕉あさのおちばゆうべの落葉夜のおちば俳画・軸装
松野自得囲炉裏新米の香を漏らしいる釜のふた俳画・軸装
松野自得スキースキーさり寂光の夜がゲレンデに俳画・軸装
松野自得おしどり千代かけて鴛鴦のちきりの灯をかさり俳画・軸装
松野自得龍虎図屏風二曲一双
松野自得耕三寺縁起絵巻 第1巻巻子
松野自得雪泥(北満遊記)巻子
俳句雑誌『さいかち』他書籍
松野自得句碑紹介パネル写真

 附 蕉門
松尾芭蕉涼しさを繪にうつしたり嵯峨の竹俳画・軸装
向井去来真桑目を病し妹に真桑をかくしけり俳画・軸装

特別展示
重要文化財 佐竹本三十六歌仙断簡
2012年4月21日〜5月6日
金剛館2階展示室

佐竹本三十六歌仙絵断簡 紀貫之