茶道は、千利休が大成したと云われて四百年余り、詫び茶と禅文化の融合した時代、嗜好的賭けごとに利用された時代から数えると六百年に及ぶ歴史を有しています。
 長い歴史のなかで好まれた道具を見ると、大陸から渡来したもの、日本の独自の工芸によって生み出されたもの、日本からの注文によって異国で作られたものなどが今日まで伝わっています。いまに伝わることなく破損したもの、あるいは戦禍に飲み込まれたもの、はたまた趣向にそぐわないために打ち捨てられたものも多くあったと思われます。しかし、茶の湯を愛する人々が道具の継承に努力を惜しまなかったことは紛れもない事実です。
 この度の展示には、いわゆる「名家」の所持品であったことが判別できる道具を出品しています。豊臣秀吉が茶道大成者・利休を庇護していたことが示すように、優れた茶人を抱えることは桃山時代以降の上級武士階級にとっての一つのステータスでした。また自らも当代有数の茶人となった古田織部や小堀遠州などが登場したように、茶の湯は上級武士階級にとって必須の嗜みでもありました。こうした状況は必然的に茶道具の蒐集を盛んにしました。今展では尾張徳川家伝来の瀬戸春慶 肩衝茶入(銘 夏山)、広島浅野家伝来のそばかす井戸茶碗など、江戸時代の大名家が蒐集した品々も展示しています。
 茶の湯の隆盛を支えたのは武士階級だけではありません。千利休も元々は堺の商人であったと言われるように、茶の湯には豪商によって支えられた面もありました。豪商にとっても茶道は一つの嗜みでした。江戸時代も中期を迎えると巨万の富を築く商人が多く現れ、彼らは有り余る富で茶道具を蒐集しました。そのなかでも、江戸時代を通じて大坂随一の豪商であった鴻池家の旧蔵品、同じく大坂で活躍した千草屋・平瀬家所持の逸品などを今展ではご覧いただけます。
 ただ、茶道の伝承に最も力を尽くしたのは各流派の家元であることは歴然とした事実です。今展では藪内流の藪内家旧蔵品を4点展示しています。
 また、多く展示しているものが西本願寺伝来の品々です。西本願寺は浄土真宗本願寺派の本山として有名です。茶の湯は僧侶の間でも好まれ、本願寺では藪内流家元を茶道師家として迎えていました。それと同時に多くの茶道具を集めたようです。
 以上のように、江戸時代以降には富裕階層に属する家々が茶道を嗜みながら多くの道具を蒐集することで、茶の湯の精神を道具とともに伝えてきました。しかし、展示品の中には持ち主を転々と変えているものもあります。名物 瀬戸肩衝茶入(銘 村上肩衝)は信濃の戦国武将・村上義清が所持していましたが、その後は後水尾天皇、徳川秀忠、西本願寺と所有者が変わりました。茶道具は珍重される余りに、贈答品としての役割を負わせられることもあり、所有者が転々と変わることも決して珍しいことではありませんでした。純然たる思いだけで文化が継承されてきたわけではないことも確かな事実ではありますが、様々な経緯を有しながらも、いまに伝わった「名家」の逸品をご鑑賞いただければ幸いです。

茶の湯の道具展 「名家の道具」 目録
品名 由来 時代
青磁 算木花入   大阪鴻池家伝来 元時代
古伊賀 擂座花入   大阪平瀬家伝来 桃山時代
古銅 そろり花入   大阪平瀬家伝来 江戸時代
藪内剣仲作 竹花入   京都原家伝来 桃山時代
青磁 分銅香合   大阪鴻池家伝来 明時代
瑠璃祥瑞 雀香合   仙台伊達家伝来 明時代
交趾 蓮花香合   京都大谷家伝来 明時代
唐物堆朱 居布袋香合   西本願寺伝来 明時代
唐物青貝 兎図香合   金森宗和所持 明時代
本阿弥光悦作 一文字香合   西本願寺伝来 江戸時代
古染付 葡萄棚水指     明時代
宗旦 信楽水指     江戸時代
瀬戸春慶 肩衝茶入 藤袴 西本願寺伝来 桃山時代
名物 唐物 大海茶入 八嶋 大阪藤田家伝来 南宋時代
御室 箪瓢茶入 谷川 京都原家伝来 江戸時代
瀬戸春慶 肩衝茶入 夏山 尾張徳川家伝来 桃山時代
名物 瀬戸 肩衝茶入 村上肩衝 西本願寺伝来 室町時代
古備前 平茶入 猿か島 西本願寺伝来 桃山時代
千利休在判 中棗   山田家伝来 桃山時代
井戸茶碗   藪内家伝来 朝鮮時代
金海茶碗 秋の色 肥前松浦家伝来 朝鮮時代
そばかす井戸茶碗   広島浅野家伝来 朝鮮時代
玄悦 黄伊羅保茶碗 黄菜 藪内家伝来 江戸時代
古萩 茶碗 雪見 大阪鴻池家伝来 江戸時代
奥高麗茶碗   藪内家伝来 桃山時代
瀬戸 黒茶碗   肥前松浦家伝来 桃山時代
古伊賀 茶碗   藪内家伝来 桃山時代
古志野 茶碗 竹心秘蔵 京都寺村家伝来 桃山時代
藪内剣仲作 共筒茶杓   大聖寺前田家伝来 桃山時代
千利休作 共筒茶杓 面影   桃山時代
青磁 太鼓胴香炉   大阪鴻池家伝来 南宋時代
豊臣秀吉 消息 天目の文 西本願寺伝来 桃山時代
青磁 鎬茶碗     南宋時代